「バイスタンダー」とは、医療用語では応急処置や心肺蘇生といった、救助に携わった第三者のことを指しますが、ハラスメントや差別の文脈では、「ハラスメントや差別、性暴力などが起きた時、その現場に居合わせた第三者のこと」という意味で使われています。何らかの被害を受けている時、 受けそうな時に周りの人が介入することで、事態を悪化させない、予防するといった効果があり、“差別の抑止力”として注目されています。このトレーニングでは、目の前で困っている人がいる時に、何らかの行動を起こすための知識の共有と実践を行います。
メディア関係者や記者職の方にぜひおすすめしたいトレーニングです。記者(特に日本の)は何かと第三者であることと同時に「中立であること」に縛られがちです。でも、それが行きすぎて、逆に公平性をかいてしまったり、弱者や被害者をかえってないがしろにしてしまったりということがあるかと思います。そんな「中立」に悩まされた時に「自分の身の安全をしっかり確保しつつ、困っている人・助けたい人への適切な介入の仕方を学ぶ」というバイスタンダーの講座は、書き手として「何をどう語るべきか」という、自分なりの判断の軸を固める良いきっかけになりました。バイスタンダーの概念や「第三者の適切な介入の仕方は必ずある」ことを知ることは、取材へのスタンスを考えるきっかけになると思います。
三木 いずみさん
フリーランス記者
25年以上前、ある発表の場で外国人のメンバーが発言した時に日本語の発音が正確にできなくて、その言葉を発するたびに周りがクスクス笑うという場面にいたことがありました。その時私はとても腹が立ち、「あなたたちは外国に行って、同じように皆の前で話すことができるのか」と言いたい気持ちになりました。でも、できなかった。それは多分、周りから浮きたくなかったからだと思います。その当人は、そんなことを軽々と乗り越えて皆と仲良くしていました。でも、私は今でもその時のことを思い出すたびに、胸がチクッと痛みます。その日本語の言葉が何だったかもはっきりと覚えています。当時このワークショップを受けていたら、何か違ったかもしれません。「行動するためのバイスタンダー・トレーニング」は自分以外の誰かのため(だけ)ではなく、自分のためのトレーニングでもあると思います。
船山 和泉さん
大学教員/コーチ/茶道講師
日本社会では経済成長が鈍化し、少なからぬ国民が貧困層になり、自然災害も頻発し、政治は迷走したまま行き場のない社会へと変わりつつある。経済成長による幸せという幻想を保てなくなった今、本当の豊かな生き方(Well-Being)とは何かを考えさせる教育が求められている。大学教育の現場の片隅で学生たちの声を聞いていると、日常生活や人間関係におこるトラブルに過剰なほどの防衛・回避反応(その典型が「知らぬふり」)をとり、そうしたことしかできない自分自身にさらに苦しんでいることがわかってきた。このワークショップを受講して、この学びこそ、苦しみの最中にある学生らの心を癒し、前へ進む勇気を与えてくれるものだと確信した。人間関係に敏感になり、社会との接点が多くなる高校生から大学生ぐらいの世代においてこのトレーニングを体験する機会が多くなれば、日本はWell-Beingな社会へと歩み出せるようになるに違いない。
聞間 理さん
九州産業大学商学部教授
他人のために何ができるか。専門家ではない、ごく普通の一般人にはただ寄り添う、傍らに立つこと以外にできることはさほど多くはないと思う。ただ、そのためのノウハウを知っているかどうかは大きな違いになる。バイスタンダー・トレーニングではそんなことを感じた。その一方で挙げられた事例に似た場面に複数回遭遇した経験からは「危ない!」という一声が事態悪化を防いだのかもしれないという気づきも。黙っているのではなく、とりあえず、一声、一足。踏み出すための知恵と勇気を得られたと思う。
中川 寛子さん
株式会社東京情報堂 代表取締役
「あの人辛そう。助けてあげたい。でもどうしよう。私も怖いし」。そんな思いを持ったことがある方は沢山いますよね。思いがけず目撃者になる「差別」や「暴力」「ハラスメント」。日本は他人に手を貸す人が諸外国と比べて少ないそうですが、実はみんな知らないふりをしたいわけでななくて、やり方を知らないだけかもしれない。バイスタンダーとしての「あり方」を知り「介入方法」のパターンを知ることで、もう見て見ぬ振りをしなくて済むかもしれません。そんなことを学べるトレーニング。世界をもっと良きものに変えていける勇気と自信をもらえますよ。
木下 紫乃さん
株式会社ヒキダシ 代表取締役